「私の友だちのお父さんは釣りが大好きで。娘にサヨリという名前をつけたんです」
「でも、サヨリって悪口ですよ」
「ええっ、そうなんですか」
行きつけのシェアカフェでの会話。
針のように細長い銀色の姿は優美だ。とがった下あごが突き出ている。漢字は「鱵」。部首の「箴」は鍼(はり)治療の「鍼」と同じ意味だ。細魚、針魚とも書く。
「サヨリのような人はほめ言葉じゃない」。シュッとした細面で見た目は美しいのに、割くと腹の中は真っ黒だから。築地にあったころの寿司大で聞いたミニ知識だ。
でも、どうして腹黒いのか。「サヨリに限らず、魚を割くと中はたいてい黒いですよ」と店長。イワシの耳殻など強い光が当たる部分は黒い。身が透き通っていると体内に強い日差しが入るので、内臓を守るために黒くなるという説がある。
「色白は七難隠す」というが、面(おもて)が白いほど腹黒になるとは。何やら人に通ずるようだ。
サヨリは、トビウオの仲間で、天敵から逃げようとして水面を跳びはねることも。コハダと並ぶ由緒ある江戸前の光り物だ。サンマ(ダツ目サンマ科)も親類で、サンマのこともサヨリと呼んでいた時代があるという。
春告魚(はるつげうお)とされ、西では春が旬だが、東では冬が旬。冬の大きい物を関東では特にカンヌキと呼ぶ。ただし、寿司ネタにするには大きくない方が使いやすいそうだ。
江戸時代の調理法は塩で締めた後、さらに酢で締めていたという。これはすしの起源と関係している。フナずしに代表されるなれずし(発酵ずし)は保存食品だった。塩で締めた魚を米と一緒に発酵させるとどろどろになった米の糖分から乳酸菌の働きで乳酸ができる。その酸味が菌の増殖を抑える。
発酵には時間がかかる。最初から酢を使って味付けするようになった。その酢飯を使うのが早ずし。西日本で押し寿司、ちらし寿司などが生まれ、それに遅れて江戸の屋台のファーストフード握り寿司が登場した。
今では締めずに生で食べるようになった。寿司大では塩で軽く洗う程度だそうだ。

◆今日の29貫
三重の〆鯖、能登の鰤、青森平目、千葉イサキ、かんぱち、千葉真鯛、淡路島サヨリ、北海道ボタンエビ卵付き、宮城白魚、宮城メカジキ、卵焼き、青森アオリイカ、東京湾チヌ昆布〆、茨城スミクイウオ、東京湾エボダイ、北海道生ダコ、山口煮アワビ、千葉クロムツ、徳島鯵、青森メジマグロ、キンメダイ昆布〆、天草こはだ、湾内オニカサゴ、湾内カスゴダイ、車海老醤油、宮城カマス塩、北海道青柳、北海道アン肝、うに
◆そのほか
お通し 鹿児島かんぱち
東京湾のあら・身・肝・皮・内臓の膜、メカジキ唐揚げ


卵焼き、ねぎり中落ち巻き
◆今日の酒
産土、三井の寿、加茂金秀



